「なぜお節句の人形を飾るのでしょうか?」
お節句の人形には子供の身を守るとか、健やかな成長を願うといった、お守りの意味合いがあります。ですから、ひとりにひとつというのが基本の形なのです。もし、愛着がある親御様のものを現在でもお持ちでしたら、ひな人形や鎧兜本体だけ、新しいお子さまのものの脇へ一緒に飾られてはいかがでしょうか。ご兄弟が出来ましたら、本来はひとつずつ揃えられるものなのですが、 下のお子さまの分は、お人形本体だけしていただくかケース入りの人形をしていただくと良いと思います。
「いつ頃注文すればいいでしょうか?」
だいたい、桃の節句なら2月10日頃まで、端午の節句なら4月10日頃までにはご来店くださいませ。それ以降になりますと、どのお店でも売り切れのものが出てきたりして、選択の幅が狭くなります。お節句人形は手作りのものがほとんどなので、それからではお節句に間に合わなくなります。
どのお店も土曜日の午後と休日は混み合います。比較的、お店が空いている平日や土曜の午前中に来店されるとゆっくりと品物を見ることが出来ます。
お店の空いている時に下見をしておいて、何点か検討してみて、休日にご家族で来店されて決められると良いでしょう。
「飾る場所を決める。」
お雛人形は飾るスペースによって飾り方や大きさが違ってきますので、可能でしたら飾る場所を決めてからご来店ください。
最近は、住宅事情のせいか飾る場所がなかなか取れないためサイドボードの上に飾るお客様が増えてきました。お節句人形というものは飾る期間は一ヶ月から一ヵ月半です。どうしても場所が取れないという方は飾る期間だけ場所を空けていただくというのも一つの考え方です。
お人形も私たちが着ている洋服と同じで、しっかり仕立ててあれば綺麗に見えます。また、長く飾っても形が崩れたりはしません。しかし、当然のことながら手間が掛かりますから、手を入れれば入れるほど高価なものになってきます。
一般的に京都で作られたお雛様が高価なのは、経験を積んだ職人が手間を掛けて作り上げ大量に生産ができないためです。また、京都ならではの技法を今でも守っていますから京雛ならではの雰囲気が漂います。最近は他産地の雛人形でもしっかり作られたものもありますが、やはり比べると明確な違いがあるように思います。
何箇所か、お人形を見るポイントというものがありますからご紹介させていただきます。
「天然の素材を使用しているか?」
当然のことながら、手などの人形の部品に樹脂などを使用していないかということです。最近は安価に出来るため、樹脂の部品を使用したお人形が大量に出回るようになりました。取り扱いが簡単なので一概に悪いとは言えませんが、やはりある程度以上のものでしたら、しっかりした天然の部品を使用したいものです。
「衣装作りはきちんとしているか?」
洋服でも多くパーツを作って手間を掛ければ、型崩れしにくく仕上がります。お人形の場合でもそれは変わりません。
手間は掛かりますが、多くのパーツに分けて衣装を作れば、型崩れのしにくい人形ができあがります。
また、これは京都ならではの技法ですが、和紙の四辺にのりを張って生地の裏張りをする「袋張り」という技法を用います。この技法を使うと、仕上がったときにふんわりとした雰囲気に仕上がります。一般的なやりかたは、不織布(織らない布のこと、商品の梱包などに使われる)をそのまま生地の裏に張るやり方です。手間が掛からないため大量生産に適しています。
「しっかりとした胴体を作っているか?」
お人形というのは、まず胴体を作って(胴組みといいます)衣装を作って(衣装こしらえといいます)から着せつけて、最後にポーズを付ける(かいな折りといいます)という大まかな工程を経て仕上げます。ですから、基本の胴体がしっかりと作られていないといけないのです。
一般的な京雛の場合は、昔ながらのわら胴(わらを束ねて円筒形にし、防虫処理したもの)を使用します。最近は桐胴(桐を成型加工したもの)も使われるようになりました。ただ、桐胴を使用してみると微妙な調整がしにくく、どうしても仕上がりが不揃いになりがちです。
あと、男雛の下を見ると、きちんとしたものは足まで作ってあります(足折りといいます)。簡素な作りのものは、ただ板を張ってあるだけというものがほとんどです。
「胴体の素材は何か?」(木目込み人形の場合)
木目込み人形の胴体なのですが、昔ながらの作りのものは桐の粉に糊を混ぜて型の中に入れて成型(桐塑といいます)した胴体を使用します。最近多く見られるのが、ウレタンという素材を使った胴体です。見分け方は桐塑の胴体は重く、ウレタンの胴体の場合は軽いです。
人形の仕立てについては少し見ただけでは判らない点が多く、詳細についてはお店に来店されて直接説明を聞いていただいたほうが良いかと思います。しっかり、人形について理解しているお店でしたら、説明してくれます。出来るだけしっかり説明を聞いてから購入することをおすすめします。
鎧兜の部品の多くは、金物を使うためその金物の質によって価値は変わります。
また当然のことですが、細かいところまで手を入れると仕上がりは良くなってきます。良いものは長く飾っても大丈夫ですし、見飽きることがありません。
雛人形でしたらお顔とかお衣装の色などでお好みがありますが、五月人形の場合はある程度形や色といったものは決まっています。写真だけでは高級品も普及品もなかなか判別はつかないと思います。
しかしながら、実物をみると、使う素材や手の入り方によって仕上がり具合がまったくといっていいほど変わってきます。つまり、色や形がある程度決まっているからこそ、工程の良し悪しがそのまま出来上がりに反映されやすいのです。良いものはそれなりの価格になりますし、ある程度出来上がる数は限られてまいります。
良い五月人形は、熟練した職人が全て手作業で一つ一つの工程を経て、時間を掛けなければ出来ない伝統工芸品です。しかし残念ながら、熟練した職人が減ってきているのもこの業界の現状です。
お品選びの際は、お店で鎧兜の説明をじっくり聞いていただいてから決められることをおすすめいたします。
以下に何点か、鎧兜を作る際の技法をご紹介いたします。お品選びの際の参考にして下さいませ。
「本金箔押し小札(こざね)」
鎧、兜は小札(こざね)といわれる板を糸で何重にもつなぎ合わせて組み上げます。その小札に純金の箔を張って剥がれないように加工したものを本金箔押し小札といいます。純金は金属の中でいちばん安定した物質ですから、長年飾っても色の変化が少なく、かえって取り扱いも楽なのが特徴です。金メッキと違い、すべて手作業で箔を張っていくわけですから、当然手間は掛かります。京都の飾り甲冑ではもっとも古くから使われてきた技法になります。
「黒小札」
小札に黒の塗料を何重にも塗り重ねたものです。
本式のものは漆(うるし)を何重にも塗り重ね、長年飾っても剥げないようにします。本金箔押しのような豪華さはありませんが、全体的に落ち着いた雰囲気に仕上がります。
現存する国宝級の甲冑の多くはこの黒小札になります。
「本金メッキ小札」
小札に本金のメッキを施したものです。普通、本金鎧、兜というとこの本金メッキのことを指します。
小札の上にメッキを施すわけですから、ムラがなく均一に仕上がり、箔押しに比べて手間が掛かりません。ただ、あまりにも手を抜きすぎたメッキを施してあるものは長年飾ると剥げてきたり、色が黒くなってくることがあります。金色をした小札の加工の仕方の中では最も一般的なものになります。
「和紙小札」
関東の甲冑師が多用する小札で、小さな和紙を何枚も張り合わせて小札を作り上げ、その上に黒の塗料を塗り重ねて固めた小札のことです。
塗料もカシュー漆のものと本漆のものに分かれます。独特の雰囲気を醸しだす技法です。
「合わせ鉢」
本式の兜の場合は、かならず合わせ鉢というものを使います。これは兜の鉢の部分(兜の頭の部分、半球形のもの)を何枚もの部品で組み上げる技法で、長く飾っても良いように丈夫にできます。
普及品は、鋳物鉢といいまして一体成型の型押しで出来るものです。これは、一体成型で出来る分、簡単に出来るのですが、鋳物を使うため長く飾るとひび割れてくる可能性があります。
「正絹糸縅(おどし)」
これは、小札をつなぎ合わせる糸に正絹(天然のシルク)を使うことをいいます。正絹の糸は独特の張りとツヤがあり、全体的にふっくらと上品に仕上がります。また、化学繊維や木綿の糸を使うのと違い、長年飾っても色落ちがしないという長所があります。
「総金具紗張唐櫃」
鎧兜を乗せる台(この台の中に鎧兜は全て納まります)を唐櫃といいます。
この唐櫃の角々に総て金具がついてるものを総金物といいます。
また、この唐櫃に紗という薄い布を張って強度をつけたものを紗張り唐櫃といいます。京都の飾り甲冑の多くで使われる技法です。中には独特の雰囲気を出すためにわざとこの唐櫃を使わないものもあります。